CAR-T 臨床に向けて

現在、私たちは非臨床試験から臨床試験に向けて、個別化がん免疫治療学講座で独自に開発したキメラ抗原受容体chimera antigen receptor (CAR)-T 細胞を準備しています。標的抗原はがん精巣抗原の一つ MAGE-A4 で、MAGE-A4ペプチドと主要組織適合遺伝子複合体 major histocompatibility complex (MHC)との複合体を認識する CAR-T 細胞です。通常のCAR-T 細胞が標的とできる抗原は、CAR の細胞外ドメインの抗体部分(可変領域短鎖抗体)によって認識されるため、細胞表面に発現しているもののみが標的となります。しかし、固形がんをはじめ、多くの腫瘍抗原は細胞内に発現しているため、従来の CAR-T 細胞では標的とすることができません。そこで私たちはMHCの溝に提示された抗原ペプチド(p) をpMHCとして認識する抗体をCARの細胞外ドメインとすることで、新しい CAR-T 細胞を自施設で製造する計画を立てました。

製造方法では、従来の細胞プロセシングセンターcell processing center (CPC) はその建設に巨額な費用を投資し、更にはその施設を維持する費用もかかります。したがって、CPC を建築することなく、簡易型細胞加工ユニットを短期間で研究室内に設置し、その中で完全閉鎖式自動細胞調製装置を稼働させることを計画しました。即ち、コストを削減するのみならず、細胞処理技術員の技能に依存することなく、同等・同質性を保った細胞製造方法です。

First-in-Human に向けて、その安全性と期待される効果を評価する試験するには、必要な輸注細胞数を設定する必要があります。通常、安全と思われる少ない量から開始して、数人に投与してその安全性を確認した後、次の高用量で試験をしていきます。また、加工T細胞は人体内で抗原と遭遇することで刺激を受けて、輸注した細胞数よりも増殖 expand します。それは体内のサイトカインによって増殖しますが、輸注しようとする宿主の体内にあるリンパ球を減少させる前処置によって効果的に expand させるため、細胞の輸注量のみならず、前処置として何を使用してリンパ球減少させるかによって、増殖の程度が異なってきます。例えば、通常はシクロホスファミド単剤、あるいはこれとフルダラビンの併用(後者のほうがより輸注T 細胞数を expand します)を用います。段階的に行う場合には、例えば、輸注T 細胞数を固定して、前処置をシクロフォスファミド単独、次のステップとしてシクロホスファミド+フルダラビンといった段階的な手順を踏みます。

現在進めようとしている MAGE-A4蛋白由来ペプチドとMHC 複合体を認識するCAR-T 細胞はいわば、従来型の TCR-T 細胞と CAR-T細胞の中間に位置し、体内動態は抗原ペプチドとのT細胞受容体による認識と似たパターンとなることからTCR-T に類似し、CAR-T 細胞としての特徴である共刺激分子をもつことから、毒性などの輸注後の細胞の振舞いは、CAR-T細胞と酷似します。したがって、従来の TCR-T 細胞に似た CAR-T 細胞ですので、その至適細胞投与量を推定することは非常に難しいです。そこで、医薬品医療機器総合機構 Pharmaceutics and Medical Devices Agency(PMDA)とのRegulatory Science (RS) 戦略相談を行いながら、慎重に計画していく必要があります。RS相談は事前面談と対面助言(現在はいずれもWeb 会議で行う)という二段階の面談が行われます。また、CAR-T のようながん細胞特異的に反応するよう、細胞傷害性T細胞を加工するには。遺伝子改変技術が必要になります。その場合、遺伝子を導入する際、ウイルスベクターを用います。したがって、環境中へのウイルスの拡散を防止しつつ行う使用が求められるため、封じ込めを管理する加工T細胞製造施設の規定があり(カルタヘナ法)、その申請・承認も必要となります。これらの手続きを踏んだ後、代表研究機関における施設倫理審査委員会での審査・承認を経て、共同研究協力施設での施設倫理審査委員会での審査・承認の手続きを経て、治験(薬剤承認を目的として試験)を届け出、医師主導型治験が開始されます。

(文責:渡辺)