TCR/CAR-T 製造における健常者由来同種γδ-T 細胞の利用とoff-the-shelf 化

  1. Off-the-shelf化“いつでも、どこでも、だれにでも”同じ効能を持つTCR/CAR-T製剤を遅滞なく輸注できる、そんな臨床的汎用性の高いTCR/CAR-T製剤を目指す取り組みが“off-the-shelf化”である。“Off-the-shelf化”されたTCR/CAR-T製剤とは、個々の製剤へ遡及的に到達可能な情報を付与され(ロット化)、即時使用可能な状況で作り置きされた治療用遺伝子改変T細胞製剤であり、予め実施された品質検定試験が担保する効能に基づいて、使用者が能動的に選択・使用できる状況にあることを意味している。予め作製する細胞製剤である以上、第一義的には、健常者由来同種T細胞を用いる製剤にならざるを得ない。
  2. 健常者由来同種γδ-T細胞の利用現在主流のTCR/CAR-T製剤は、患者自身の自家αβ-T細胞を利用する。その際、患者自身が受けた抗がん剤・放射線治療に起因する機能的ダメージの蓄積により、自家αβ-T細胞は分裂増殖活性等に障害を持つ場合がある。臨床的に先行しているCAR-Tでは、増殖不良によるCAR-T製造不成功や製造遅延により治療機会を逸するケースが少なからず経験される。他にも輸注後のCAR-T機能にも制約があると考えられている。その解決策として、健常者ドナー由来同種αβ-T細胞の利用が検討されている。TCR-(αβ)Tでは、既知のがん抗原特異性を附与する治療用αβ-TCR遺伝子の導入は、高純度の単一TCR発現T細胞を輸注する限りにおいて、他の同種抗原を認識せずGVHDリスクを減らせることは血液がん診療の場でも良く知られている。一方で、同種であれ自家であれ、αβ-T細胞を用いるTCR-Tでは、導入する治療用αβ-TCRと内因性αβ-TCRとの間で目的外のα鎖・β鎖の組合せであるミスペアTCRヘテロダイマーが生じる。現在まで、ミスペアTCRによる臨床的実害は報告されていないが、未知の抗原応答性を獲得して重篤な自己免疫疾患や移植片対宿主病(GVHD)を生じる危険性がマウスを用いた検討で指摘されている。γδ-T細胞では、導入する治療用αβ-TCRと内因性γδ-TCRとの間でミスペアは生じず、導入したαβ-TCRか内因性γδ-TCRのどちらか一方を発現する。

    一方CAR-Tは、図1.に示す様に、導入したCARと内因性TCRを持つdual receptor細胞となっている。この内因性TCRは、輸注後患者体内で遭遇するcognate antigenを認識してCAR-Tへ生存シグナルを提供する一方で、生着したCAR-Tの同種免疫応答によるGVHDを誘発する。これまでは、GVHDを含む重篤な有害事象が生じた場合にon-demandにCAR-Tを排除する目的で自殺遺伝子が導入されて来たが、それではCAR-Tの臨床効果も消失する。そこで、TALENやCRISPR/Cas9等のゲノム編集技術を用いて、この内因性TCR遺伝子を除去し、加えて、ホスト(患者)側の免疫学的拒絶による輸注CAR -Tの急速な排除・失活を避ける目的で、HLA class I遺伝子の除去も試みられている。HLA class I遺伝子単独の除去では、ホストNK細胞の攻撃で排除されることから、NK細胞のCD94/NKG2Dを介した抗原特異的認識を抑制する非古典的HLA-E遺伝子の同時挿入が提案されている。現状では、これらゲノム編集技術の臨床的有効性と安全性は検証段階に留まっている。そこで、健常者由来同種T細胞を安全に用いる他の方法として、同種γδ-T細胞 の利用が提案されている。

  3. TCR/CAR γδ-T細胞の作製自然免疫と獲得免疫を繋ぐハイブリッド型免疫細胞として知られるγδ-T細胞は、細胞傷害性エフェクター活性に加えて、抗原提示能、抗体依存性細胞傷害活性など様々な機能を持つ。がん免疫療法のエフェクター細胞としての視点からは、γδ-T細胞上のNKG2DやDNAM-1等のnatural cytotoxicity receptorに対するウイルス感染細胞やがん細胞表面上のリガンドを認識して強力な細胞傷害活性を発揮する機構と、γδ-TCRの抗原認識を介したclonalに近い細胞増殖と細胞傷害活性を備えており、ここに、遺伝子改変を加えて抗原特性を附与することで、生来の複数の機序による抗腫瘍活性にさらにがん抗原特異的な細胞傷害活性を追加できる利点がある。γδ遺伝子レパトアから複数の種類のγδ-T細胞が存在するが、当研究室では、臨床的可触性を優先して末梢血リンパ球の0.5~5%を占めるVγ9/δ2-T細胞をTCR/CAR-T製造に用いて検討を進めている。Vγ9/δ2-T細胞は、αβ-T細胞と異なり、HLA非依存性にγδ-TCRを介してbutyrophilin(BTN)3A1/2が提示するisopentenyl pyrophosphate(IPP)を認識して活性化され、抗原陽性標的細胞を殺傷する。この理由でγδ-T細胞はHLAを介した抗原エピトープ認識である同種免疫応答に起因するGVHDを誘発しない。我々が実施したヒトがん細胞を担癌した免疫不全マウスをTCR/CAR 遺伝子導入ヒトVγ9/δ2-Tを用いる治療実験でも異種GVHDを全く生じなかった。この利点は、HLAを問わず健常者由来同種γδ-T細胞をGVHDリスク無く安全に利用できる可能性を示している。

    しかし、現実に遺伝子改変γδ-T細胞製剤を作ろうとすると、最終製品中に残存するαβ-T細胞がGVHD発症リスクとなる。そこで、我々は、予めαβ-T細胞を除去した末梢血単核球を新規ビスホスホネートプロドラッグ(tetrakis-pivaloyloxymethyl2-(thiazole-2-ylamino)ethylidene-1,1-bisphosphonate;PTA)を用いて刺激し、interleukin-7とinterleukin-15を添加した9日間程度の短期培養で増幅し、残存αβ-T細胞が殆ど無い極めて高純度の同種Vγ9/δ2-T細胞を得ることに成功した(長崎大学・田中義正教授との共同研究)。このVγ9/δ2-T細胞に、レトロウイルスベクターを用いて、がん精巣抗原NY-ESO-1やHTLV-1ウイルス関連p40Tax特異的αβ-TCR遺伝子やCD19、disialoganglioside(GD2)、carcinoenbryonic antigen(CEA)特異的CAR遺伝子を導入した同種TCR/CAR γ/δ-Tを作製して血液がんや固形がん治療への臨床応用を進めている。

    我々は、HLAを問わない健常血縁者ドナー由来の同種γδ-T細胞を利用する、one-donor to one-recipient型で臨床試験を開始する予定だが、上述した理由により、HLAを問わない不特定健常者ドナー由来の同種γδ-Tをone-donor to multiple recipients型で利用できれば、 “off-the-shelf化”が実現できる。我々は、同種γδ-T細胞にその可能性を期待して開発を進めている。

    (文責:藤原)

     

(参考文献)

  1. Hayday AC. γδ-T cell update: Adoptate orchestrators of immune surveillance. J Immunol. 2019; 203:311-320.
  2. Hoeres T, Smetak M, Pretscher D and Wilhelm M. Improving the efficacy of Vγ9Vδ2 T-cell immunotherapy in cancer. Front Immunol. 2018 Apr 19;9:800. Doi:10.3389/fimmu.2018.00800.eCollection 2018.
  3. Rafiq S, Hackett CS and Brentjens RJ. Engineering strategies to overcome the current roadblocks in CAR T cell therapy. Nat Rev Clin Oncol. 2020, 17:147-167.
  4. Rego RT, Morris EC, Lowdell MW. T-cell receptor gene-modified cells: past promises, present methodologies and future challenges. Cytotherapy. 2019; 21: 341-357.

(図の説明)

図1.CAR遺伝子導入同種αβ-T細胞の構造とGVHD抑制方法

CAR-T細胞は導入したCARと内因性TCRの2つの受容体を持つdual receptor細胞となる(上段)。内因性TCRはcognate antigen認識を介した活性化シグナルを供給する一方で同種抗原を認識してGVHDを発症させる。GVHDはCAR遺伝子導入同種αβ-T細胞が克服すべき極めて重要な臨床的課題となっている。これを防ぐには、既知の抗原特異的な内因性TCRを持つT細胞集団(例えば、サイトメガロウイルス抗原特異的メモリーT細胞など)を選別してCAR遺伝子を導入するか、或いはゲノム編集技術を用いてこの内因性TCRをノックアウトする必要がある(下段)。TCR:T細胞受容体、 CAR:キメラ型受容体、 HLA:ヒト白血球抗原、 Vα:TCRα鎖可変領域、 Vβ:TCRβ鎖可変領域、 Cα:TCRα鎖定常領域、 Cβ:TCRβ鎖定常領域、ε/γ/δ/ζ: 各CD3の構成分子、VL:免疫グロブリン軽鎖可変領域、 VH:免疫グロブリン重鎖可変領域、 TM:膜貫通領域、Cost.1, 2:共刺激分子1及び2、ITAM:免疫受容体チロシン活性化モチーフ、CMV:サイトメガロウイルス。