抗原結合部位とシグナル伝達部位(多くの場合CD3ζと副刺激分子のシグナル伝達部位)からなるCARを用いて活性化されるCAR-Tは、約5億年かけてリファインされてきた内因性のTCRによる通常のT細胞(TCR-T)の活性化とその後の生理的結末が大きく異なることが予想される。事実、CAR-T輸注療法の有効性は、CAR-Tのin vitroでの短時間のアッセイによって示される細胞傷害活性とは相関せず、生体内では持続性を欠き、疲弊(機能消失)しやすいことが明らかになっている。従って、疲弊によって生じる細胞表現型を指標に、疲弊にいたるメカニズムを明らかにすることで、より有効なCAR-Tの作製と調製が可能となる。
CAR-Tの疲弊はCARコンストラクト中のscFv部位、ヒンジ部位、シグナル伝達ドメインに影響される。scFvやヒンジの構造によってはCAR分子自体の重合化が抗原非依存性に自発的に誘導され、細胞調整の段階から疲弊が誘導される。また、CARの腫瘍抗原認識に伴う慢性刺激による疲弊誘導に対して、細胞内シグナルの種類によっては高い感受性を示す。後者の分子機構として、細胞内代謝変化による遺伝子のエピジェネティック発現制御や酸化ストレスによるミトコンドリア機能阻害に基づくとされる。
当研究室では、scFv部位やヒンジ部位が同一で、細胞内シグナル伝達ドメインが異なるCARコンストラクトを導入したCAR-Tや、CAR-T調整時の培養条件が異なるCAR-Tを用いて、in vitroでのin vivoでの長期培養により変化する疲弊マーカーの発現や、細胞傷害機能を明らかにすることで、固形がんに適したCAR-Tの作製を目指している。
(文責:加藤)