研究について

(9)がん免疫療法臨床試験のリバーストランスレーショナルリサーチ:がん免疫療法モニタリング研究

背景

抗チェックポイント抗体を用いた免疫療法の臨床での成功によって、「がんに対する免疫応答が増強されれば腫瘍の退縮に結び付けることが可能である」ことが明確になってきました。これまでにも、がんに特異的な免疫応答を活性化させるために腫瘍抗原を標的とした短鎖ペプチド・長鎖ペプチド・蛋白・mRNA等を用いたがんワクチン臨床研究が世界各国で行われてきましたが、今後はより治療効果を上げるために、これらがんワクチン療法と抗チェックポイント抗体等の他の免疫療法との併用複合治療が益々活発に行われていくと予想されています。
免疫療法の中でも、がんワクチン療法では投与する抗原(単価あるいは多価を含め)に対する免疫応答を生体内に誘導することで治療効果に結び付けることを目的としています。そのため、実際に投与した抗原に特異的なT細胞がどの程度誘導されるかを確認し、更に治療効果との相関を解析することが臨床試験における最も重要な要素となります。また、抗チェックポイント抗体を用いた治療の場合には、腫瘍抗原・変異抗原に対する免疫応答が実際に増強されているのかを知ることも重要となります。このような解析の一方で、臨床試験で得られた免疫応答解析結果から今後のより効果的な治療法開発のための研究を行う(リバーストランスレーショナルリサーチ)ことが全てのがん免疫療法の重要なテーマとなっています。
免疫応答解析の対象として一般的には末梢血を対象とした解析が行われますが、この場合に問題となるのが、誘導される抗原特異的なT細胞の末梢血中での頻度の低さになります。そのため通常では、数日間から数週間の抗原刺激を伴う培養を行い、抗原特異的T細胞の頻度を飛躍的に増幅させる手技が必要となります。しかしながら、このような長期間の培養を伴う場合には、培養後に得られる抗原特異的T細胞の頻度等の解析結果が実際に生体内に惹起された免疫応答をどこまで正確に反映しているかが不明確であり、治療法の正確な評価が困難であることが大きな問題となっていました。

研究内容

この問題を克服する一つの手段として、私たちの研究室では培養時間を最小限にすることが可能となる、従来の測定法と比較してより鋭敏な免疫応答検出法の開発を行っています。
その一歩として、従来から免疫応答の測定指標として頻用されているIFN-γに代わるより鋭敏な指標の探索を行っています。多数の候補をスクリーニングした結果から、T細胞から放出されるIFN-γ刺激により末梢血中の単球系細胞において増幅されるCXCR3リガンドであるCXCL9,10及び11に着目し、これらケモカインを指標とする免疫応答測定法開発を行ってきました。ヒト及びマウス免疫系を用いた解析により、微量のIFN-γの存在下でもこれらケモカインが多量に産生され、より重要な点として、免疫応答の非常に早期にこれらケモカインの産生が十分に認められることが分かりました。
従って、従来法と比較し迅速性に優れた測定法であることを明らかにしてきました。現在、この測定法を用いて我々が現在行っているがんワクチン療法の免疫応答解析を行うとともに、変異抗原に対する生体内のT細胞の免疫応答解析研究を開始しています。