研究について

(6)T細胞由来小胞体ベシクルの解析と臨床への応用

小胞体ベシクルとは

細胞が放出する細胞外小胞体ベシクルには、細胞膜の一部がくびれとられ形成される直径100-1000 nmのマイクロベシクルと、アポトーシスと呼ばれるプログラム細胞死の遅い段階で形成される直径10 nm以下のアポトーシス小体、さらには後期多胞性エンドソームの細胞膜融合により細胞外に放出される直径50-150 nm前後のエクソソームがあります。
エクソソームにはその内部や表面には核酸(マイクロ(mi)RNA 等)や蛋白質(接着分子やシグナル伝達因子等)など放出細胞由来の生理活性物質が豊富に含まれています。エクソソームを取り込んだ近傍または遠隔の標的細胞は、エクソソーム由来の生理活性物質で様々な変化を受けると報告されています。このように、エクソソームはサイトカインやホルモンなどと共に細胞間の情報伝達を仲介しています。2500種類以上存在すると考えられているmiRNAはエクソソーム内で安定に保持され、体液中のエクソソーム内miRNAの分布は、がん種やがんの病態で変化することが知られており、がん生物学的研究やがん診断への応用分野でエクソソーム内miRNAが注目されています。(エクソソームに存在する生理活性分子群)

CD8+ T細胞放出エクソソームのがん間質における間葉系細胞傷害作用と、それによるがんの浸潤・転移抑制作用

悪性腫瘍はがん細胞だけで構成される組織ではなく、マクロファージ、骨髄由来抑制細胞、腫瘍血管、繊維芽細胞などの間葉系細胞、細胞外マトリックスタンパク質などで構成される間質が存在します。
がん間質は腫瘍形態の維持や腫瘍の免疫攻撃回避に大変重要な役割を果たしているばかりでなく、浸潤や転移などがんの悪性化と密接に関わっています。がん細胞は間質の成長を促し、間質はがん細胞の上皮間葉転換と呼ばれる浸潤・転移性獲得のための分化や腫瘍への栄養補給に欠かせない腫瘍内の血管新生を促します。
特にがん関連繊維芽細胞などの筋繊維芽細胞や間葉系幹細胞で構成される間葉系の間質のがんの浸潤・転移促進機構はよく検討されており、間葉系間質細胞の放出するTGF-βやSDF-1はその中心的サイトカインとして知られています。
我々はこれまで、京都大学のERATO秋吉バイオナノトランスポータープロジェクトの援助を受け、がんの免疫学的拒絶の中心として働くCD8+ T細胞が放出するエクソソームの腫瘍内での役割について検討を重ねてきて、以下の事実をマウス及びヒト実験系で明らかにしました。
CD8+ T細胞放出エクソソームには間葉系幹細胞や筋繊維芽細胞をmiRNA依存的に死滅させる働きがある。
CD8+ T細胞放出エクソソームにより間葉系幹細胞や筋繊維芽細胞を失った腫瘍は浸潤・転移能を著しく低下させる。
がん間質の間葉系細胞はエクソソーム取り込み能に優れた細胞である。

がん浸潤・転移阻害を目指したエクソソーム創薬

エクソソーム創薬の前例は乏しく、創薬の基準となる調製法さえ存在しません。そんな中、がん間質の間葉系細胞を標的としたがん浸潤・転移阻害エクソソーム創製の初期的検討が当教室で既に始まっています。以下に示すように、克服すべき課題は多いです。
品質評価法を含めたエクソソームの最適な調製法の樹立
間葉系幹細胞や筋繊維芽細胞傷害性のmiRNAの発現系の確立とそのエクソソーム内包埋法の樹立
エクソソーム非臨床試験
エクソソームGMP製造
治験開始のための薬事対応