研究について

(3)がん治療に用いるヒト型抗体の作製と解析

(1)抗体治療法の開発

がんは、日本人の死亡原因の1位を占める疾病で、従来は治療困難とされてきましたが、基礎知識の蓄積とそれに伴う治療技術の進展によって治療の可能性が広まってまいりました。私たちの推進している、抗体を使用した治療法の開発もその一つです。
がんは、がん細胞の分裂増殖に伴って発生します。それは、通常、複数の遺伝子の変異によって自律的な増殖能力を獲得したもので、多くの場合、正常組織とは異なる遺伝子発現をしております。その結果、細胞表面、もしくは細胞内に、正常とは異なる分子を発現します。
これらのがん遺伝子産物を認識して、その発現細胞を排除することができれば、がんを治療することが可能です。私たちは、がん細胞内に発現される、がん遺伝子産物に着目しました。これらの分子は、プロテアソームにて分解され、プロセシングされてペプチドとなり、主要組織適合抗原(HLA)、及びbeta-2 microglobulinと会合して細胞表面に提示されます。これがペプチドMHC複合体(pMHC)です。私たちはこれまで、主としてこのpMHCを標的にした抗体取得を行ってまいりました。

(2)抗体及びヒト抗体ライブラリ

抗体は、異物を認識して不活化し、また、微生物やウィルスを認識してこれらを排除するなど、生体防御に関わっている分子です。それはH鎖とL鎖からなる約150kDaの分子で、多様性に富み、生体においては、Bリンパ球より分泌されます(図1)。この遺伝子を取り出して再構築したものが「ヒト抗体ライブラリ」で、それは、多様な抗体をM13バクテリオファージ上に発現させたものです(図2)。

(3)抗体の単離

抗原としてのpMHC分子を磁性ビーズに結合させ、これにヒト抗体ライブラリを反応させたのち、洗浄を行うと、pMHCに結合する抗体ファージが残ります。抗体ファージを増幅させたのち、同じ操作を行ってゆくと、最終的にpMHCに結合する抗体ファージが高度に濃縮されます。スクリーニングの条件をより厳しくすることによって、結合活性の高い抗体クローンを選択することも可能です。このようにして、複数の抗体クローンを抗体選択します(図3)。
また、細胞表面分子を標的とした抗体スクリーンを行う方法としては、細胞そのものを使用した、抗体スクリーンが可能です。それは、有機溶媒を使用したスクリーンの方法で、標的細胞と、ヒト抗体ライブラリを混ぜたのち、これを有機溶媒上に乗せ、遠心力をかけて細胞に結合する抗体phageを取得する方法で、細胞上の分子を認識する抗体集団を網羅的に取得することが可能です(図4)。この方法と上記の磁性ビーズスクリーニング法を組み合わせることによって、細胞表面に発現する、特定の分子を認識する抗体の取得が可能となりました。
単離した抗体クローンは大腸菌発現をさせ、精製することが可能です。これを使用して、ELISA法による結合特異性解析や、BIAcore測定による結合解離測定を行い、認識が抗原特異的で、結合活性の高い抗体を選択します。
(4)これまでの研究経過

これまでに私たちは、EGFR, HER2, PSMAなどのがん細胞表面抗原タンパクを認識する抗体や、がん細胞内のがん抗原分子がプロセスされて、主要組織適合抗原I(MHC Class-I)上に提示される、ペプチドMHC複合体(pMHC)を認識する抗体の取得に取り組んできました。がん抗原WT1、がん精巣抗原MAGE-A4などのpMHC認識抗体がこれまでに取得できております。
そして、それらの抗体を使用して、遺伝子改変T細胞を作製し、がん治療を行う方法を開発しております。それは、キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor, CAR)と呼ばれるものです。詳しい内容は、CARの紹介の章をご参照ください。

 

 

 

 

 

図1.抗体の構造
H鎖とL鎖より成り、VHとVLで抗原認識部位を構成する

図2.ファージ抗体の構造
表面分子cp3と融合した形で抗体の抗原認識部位scFvを発現する

 

 

 

 

図3.磁性ビーズを使用した抗体単離
特定のpMHCに結合する抗体がとれる

 

 

 

 

 

図4.細胞を使用した抗体単離
細胞表面抗原に結合する抗体が網羅的に取得可能